「発達障害の可能性がある小中学生は学級に8.8% 文科省調査」(NHKオンライン 2022年12月13日 12時56分)というニュースが流れました。NHK以外の報道各社もこのニュースを伝えました。
記事は、「文部科学省は、ことし1月から2月にかけて全国の公立の小中学校と高校に抽出調査を行い、1600校余りの7万4919人について担任などから回答を得ました。その結果、読み書きや計算など学習面の困難さや、不注意や対人関係を築きにくいといった行動面の困難さがあるなど、発達障害の可能性がある児童生徒は小中学校の通常学級に8.8%、11人に1人程度在籍していると推計されることが分かりました。調査方法などは一部変わっているものの、前回10年前の調査の6.5%から増加しています。また、今回初めて調査した高校では推計で2.2%でした。」(NHKオンラインの記事一部抜粋)という内容です。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221213/k10013921321000.html)
簡単に言うと、全国の公立小中学校では、「何らかの発達に関わる課題を抱えており、そのため学校生活において困難さを感じている児童生徒」が1学級当たり約3人いるということです。
放課後等デイサービス ステップ光町ジャンプ教室では、利用児童一人ひとりの状況に合わせて「WISC-Ⅳ」「K-ABCⅡ」「DN-CAS」「新版K式発達検査」の4種類の知能(発達)検査の中からいずれか一つ又は複数の検査を取っています。
検査後、その結果を当該児童生徒の保護者にフィードバックするほか、保護者の了解があれば、子どもが在籍する学校を、その子の担当指導員と訪問し、担任や学年主任の先生(教頭先生の場合もあります)に検査結果を伝えています。その際、その子の特性に応じた関わり方を提案したり、学校や施設の様子について情報交換をしたりします。
また、学校を訪問すると、授業の様子を見学させてくれることがしばしばあります。授業を見学させてもらうと、必ずと言っていいくらいクラスに5人は「おやっ」と思う子どもがいます。当然詳しい状況や背景は分かりませんが、「適切な支援を受けているのかな」と思います。同行した指導員も同様の思いを持つことが多いです。
こういった経験から、35人学級換算で1学級当たり3人と言う数字は、思ったより少ないというのが正直な感想です。
この調査は、設問に対して先生が答えるという方法をとっているので、「回答者(教師)の感覚」も数値に反映されると思いますし、「福祉の目」で見る場合と「教育の目」で見る場合の違いがあるのかもしれません。
記事の後半には、有識者の意見や文部科学大臣の談話が掲載されています。どちらも「子どもを取り巻く環境の変化」と「通級教室の充実」に言及されていますが、抜本的な対応策がとられることを切に願います。
なお、学校種ごとに、「学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒」の数値を見てみると下表のようになります。
この表を見ると、安易に「8.8%」という数字にとらわれてはいけないと思います。
また、比較のために数値を記載した平成24年実施の調査名称は「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(下線は筆者)ですが、令和4年は、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」となっています。「発達障害の可能性のある」という文言がなくなっているのが、不思議な感じがします。
確かに、不安障害や統合失調症等の精神症状や家庭の問題で発達障害のような症状を呈することがあるので、それを考慮したのかもしれません。
今回の調査結果を報道するマスコミ各社の記事のタイトルは、調査名称や設問に「発達障害」という言葉がないにもかかわらず、「発達障害8.8%」という文字が、判で押したように並んでいました。様々な情報が飛び交う中、発達障害という言葉が独り歩きしすぎていないか危惧します。
参考
「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」調査結果(平成24年12月5日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328729_01.pdf
通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について (令和4年12月13日)
https://www.mext.go.jp/content/20221208-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf
今回の調査結果公表の前後に、FNNプライムオンラインのウェブサイトで、医学博士で神経内科専門医の小林晶子さんが分かりやすく解説をしています。
https://www.fnn.jp/articles/-/454654 (2022年12月6日)
https://www.fnn.jp/articles/-/457917 (2022年12月14日)
以下12月14日の解説の要約です。
①公立小中学校の通常学級に、発達障害のある児童生徒が8.8%在籍していると推定され
ることが12月13日、文部科学省の調査で分かった。35人学級なら3人ほどが該当する。
②これは「通常学級」の児童生徒を調査した結果なので、「支援学級」等を含めると、その割合はもっと高くなるだろう。
③発達障害は、脳の働き方の違いによって、コミュニケーションや対人関係を築くことが苦手なことがあり、社会生活上で生きづらさを感じることが少なくない。
④(発達障害は)生まれつきの脳の機能障害であって、「親のしつけ方・育て方が悪い」「親の愛情不足」といったことが原因ではない。
⑤現在は、発達障害にはなんらかの遺伝的要因が関わっているが、その他のさまざまな環境要因と複雑に影響し合って発現するという考えが主流になっている。
⑥発達障害を完全に治療する薬や手術などの医学的な方法は現在存在しない。
⑦しかし、早期からの「療育(社会的に自立できるように取り組む治療と教育)」は、症状改善に大きな効果があるとされている。生活の適応能力を高めることが可能になる。
⑧そして、療育訓練は早ければ早いほど良いと言われている。
(文責は筆者)
「発達障害」クラスに3人の“衝撃”…
「もしかしたら」と感じたら早めに受診を 早期の“療育”が効果的
というかなり刺激的なタイトルで始まる解説ですが、平易な文章で分かりやすく書かれているので、ぜひご一読ください。12月6日の解説では、内容はほぼ同じですが、「グレーゾーン」に言及していますので合わせてお読みください。
長文になりましたが、取り急ぎ所感を述べさせていただきました。今後も折に触れて、この調査について取り上げていきたいと思います。